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過去の小説を載せていきつつ、新たに小説も書いていきたいと思っています。更新ペースはきまぐれです。 ジャンルは恋愛、青春。日常に非現実的なことがちょっと起こったりとかが大好きです。
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いつもの帰り道、学校の授業を終えると茜色の空が美樹を出迎えてくれた。
帰り道の通学路、その光景には4人くらいで帰っている人も居れば、
2人だけで仲良く帰っている子もいる。そして、中にはカップルも。
その中で、美樹は一人歩いていた。
もちろん美樹には友達がいない訳ではない。だが、特別な友達がいるわけでもない。
ただ、1人で帰っているだけなのだ。
意識がはっきりとして居ないと言えば言い過ぎかもしれないが、美樹は普段から
物事をどうこうと考えることは無かった。
日々の日常が平凡すぎて仕方がない。けれども、それでも別に構わない。
特に何を考えることも無ければ、人間関係なんてそう難しい事ではない。
その代わり、特別な存在と言えるような友達ができないだけ。
美樹は、別にそれでも良かった。悩むことが無いのなら。
それで平坦な人生を歩むことができるのなら。
…しかし美樹は高校3年生、大きな試練を乗り越えなければならない年齢である。
受験という重みのある言葉からは決して逃れることはできないのだ。
目標なんて無い。それ以前に、特にやりたいことなんて何も無い。

…こんなだから、美樹は何をするにも思うにもただ何となく。
いつもと変わった行動を取る時だって、それはただ何となくの行動でしかない。
だから、
「今日は丘の上にある公園にでも行ってみようかな。」
今そう思ったのも、本当にただ何となくでしか無かった。


─春・出会い─


丘の上にある公園には、様々な植物があり、叉様々な木々が生い茂っている。
その為、公園の名前はそのまま『自然公園』と名付けられたのだと言う。
この公園はそんなに大きくはないが、いつも穏やかな時を過ごす事ができ、
暖かな風が心地が良い。
美樹はここに一人で来るのが好きで、(といってもやはり何となく
気が向いた時にしか来ない。)
中央にある噴水の静かな音を聞くのが、尚心地が良かった。
今は4月の中旬であるため、桜の花はほとんど散ってしまっているのだが、
そんな木々を少しでも見ようと美樹は桜の木が生い茂る方へと足を運んで行った。
階段を上り、更に高い位置へ昇っていく。
そして桜の木の下に腰を下ろし、そこに寄りかかった。
正面には大きな茜色の空と茜色に染まった町が広がっている。
ここは元々人があまりいないので、夕方である今は尚いっそう人気が無い。
その静けさは、安らぎ満ちあふれ、けれども何処か空虚なものであった。

目を瞑ってうとうとしていると、背後から声が聞こえた。
「…そうなんだ。こんなに晴れてるのに、明日は雨なんだね…。
じゃぁ明日は来られないね…。」
その声には、少しの寂しさが感じられる。
美樹は寄りかかっていた木の反対側をそっと覗いてみると、…そこには
少年が1人、木に触れて立ちつくしていた。
「え? …うん。だってどうせ、一人だから…。でも、別に良いんだ。」
少年は俯き加減に、呟く。
一体誰と話しているのだろうか?
まるで正面に話し相手が存在しているかのような話し口調である。
じーっと見ていると、少年は視線に気付いたようで美樹は素早く体勢を元に戻した。
しかしその素早い行動も虚しく少年はこちらに向かって来る。
「あなたは…いつからここにいたんですか?」
少年は、幼い割りに言葉遣いがやけに丁寧だった。
「私は…10分くらい前から…かな。」
そう言って微笑んで見せるが、少年は俯く。
「僕のこと…不気味だって思ってますよね…。 一人でぶつぶつ呟いてるって。」
「不気味だとは思ってないけど、…不思議だとは思ったかも。」
年下との会話をあまりしたことが無いために、言葉遣いの丁寧な少年とは
対照的に美樹の言葉遣いは普段と全く変わらない。
「疑うのは当然だと思いますけど…、僕は決して独り言を言っていた訳では
無いんです。これは、本当なんです…!」
「そ…そんな必死にならなくても良いよ。何て言うか…私はそーゆうのあまり
気にしないタイプだからさ。」
すると少年は目を丸くして驚いた様子を見せる。
「珍しいですよ…。僕のことを気持ち悪がらない人って…。」
「そう?」
美樹は少年の目を見る。その目はとても綺麗な色をしているのだろうに、
勿体ないくらい色褪せてしまっているように見えた。
「はい…。」
普段から物事にあまり執着せず関心を持たない美樹だが、何だかこの少年には
少し興味が湧いていた。学校のような場には、この少年のような独特な雰囲気を
持つ人がいないからかもしれない。
「ねぇ君さ、名前何ていうの?」
「海山 海(みやま かい)です。『みやま』の『み』も、『かい』も漢字で海と
書くので『海』が二つあるんですよ。」
「へぇ…なんだか面白いね。」
そう言って美樹は笑う。
「あなたは…何て言うんですか?」
「私は浅木 美樹(あさき みき)。美樹って呼んじゃって良いよ。」
「駄目ですよ、さすがにそれは…。美樹さんって呼びます!」
海は即答する。
「そんなの良いのに。話し方だって敬語じゃなくても良いくらいだよ。」
これだけ礼儀正しいのだから、きっと親はもっとしっかりとした人で
あろう事を想像させる。
「ところで、一番気になっていたことなんだけど。海は何で一人でしゃべって
いたの? あぁ…独り言じゃないんだったね。」
それを聞いた途端に、また海の表情が曇り出す。
「絶対に信じてもらえませんよ、こんなことを言っても。」
そう言われると、普段はどうでも良くなってしまう美樹だが何故だか凄く
食い付きたい衝動に駆られる。
「信じる、絶対信じる! それにこれから海が話すことがどんなに変なことで
あっても私は別に気にしないから!」
海は頷くと、口を重たそうに開いた。
「僕は…、木と会話することができるんです。木と話せば、木が感じている事も、
思っていることも、見たことも、聞いたことも…分かります。
…木が教えてくれたらの話しですけど。」
「う…嘘…」
海が一人で何者かと会話をしているのは思いつかなかったが、まさか木々と会話
ができるだなんて言うとは思わなかった。
「やっぱり…気持ち悪いですよね、こんなことができるのって…。
それ以前に、信じてもらえないですよね、こんな話。あはは…。」
「…確かに、他の人に言ったら怪訝に思われるかもしれないね。」
「そうですよね…。」
元々元気のない声ではあるが、それが更に弱々しい声になる。
「でも私は信じるよ。ってゆうかさ、…木々と会話ができるって凄く良いじゃん!
楽しそうだし、私もその能力欲しい!」
美樹は決して海のことを気味悪がったりはしなかった。
それよりも、むしろその能力に魅力を感じたのだ。気味悪がったりする前に、
その能力がいかに面白そうな事か。そんな考えが真っ先に頭を過ぎった。
美樹の答えが予想外だったのか、海はぽかんとしている。
「良い…ですか? この能力が…? 人に気味悪がられるんですよ…?」
「うん? 別にそんなの関係ないよ。自分が楽しければそれで良いじゃん。」
「良いですね…、僕はそんな美樹さんのあまり気にしないでいられる所が、
凄く良いなって思います。なかなかできないですよ…。」
「だって、周りのことをどうこうと意識するのって凄く疲れるからさ…。
私は、…色々考えることを止めちゃったんだ。その結果、それは孤立すること
にも繋がってしまったけれど…。その代わり、凄く楽になったよ。」
美樹は空を見上げた。
もう空の茜色は消えかかっており、深く青い夜空が一面に広がろうとしていた。
「気にしない…か。そうですね。僕も、少し心がけてみようかな…。
孤独には慣れています。だからきっと大丈夫…。」
海はそう言って美樹から少しずつ離れていく。
少し歩いた所で立ち止まり、振り向いた。
「美樹さん、今日は話せて楽しかったです。」
海は笑顔でそう言うと、階段をゆっくりと下りていく。海の姿は、次第に夜の闇に
溶けて見えなくなっていった。
美樹は笑顔で見送ると、一人桜の木の下に立ちつくしていた。周りには人の気配が
無く、公園には木々と美樹だけになっているため、静寂の時が流れている。
美樹は木に触れた。
「君は…どんな話をするの…?」
無論、返事は無い。
「普段は気にしないことなんだけど…、何故か今は凄く気に掛かっている…。
海は…孤独なんだよね? あの表情を見ていると、本当は孤独で寂しくて
堪らないんだよね…?」
冷たい風が吹き、桜の木の葉と周りの草木がなびく。
これは、木々が返事を返してくれているのだろうか?…ならば、もう少し…。
「私はこれで良いんだと思ってた。孤独でも何でも、自分の気持ちが
楽になるのなら…。でも何故だか今、凄く胸が痛くて堪らない…。」
話しをし続けるも、もう木々が再びなびくことは無かった。
美樹は様々な思いを背負いながら、自然公園を後にした。


─夏・少年の謎─


季節が春から夏へと変わり始めているある日のこと、美樹はまたあの自然公園
に海という名の少年に会いに行っていた。
「そういえば海は何歳なの? 12歳くらい?」
「僕は…多分10歳くらい…。」
「多分…? 自分の年齢を多分だなんて可笑しな事を言うね。」
「僕、誕生日のお祝いなんて全然やってもらってないんです。だから、自分の
歳のことなんて全然考えもしていなかった。」
「なんだ、そうだったの。」
海は少し寂しげな表情をする。美樹は、そんな海の顔をのぞき込んだ。
「なにしょんぼりしてんのー。次からは私が祝ったげるよ! もちろん、
場所はここで。そんで、この木と一緒にね。」
美樹は海にウインクをして見せる。
「ありがとうございます。祝ってもらえると知っただけでも、凄く嬉しいです。
でも、12月なんですよ。まだまだ先の話しですね。」
「あっという間に来るよ、次の誕生日なんて。…月日が流れるのは、本当に
あっという間だから。」
「そうですね……。」
それから、2人は何を話すわけでもなく、ただ黙って心地よい風に当たっていた。
この空間いることは、まるで異世界にいるような感覚だ。
学校のように心を締め付けたりはしない、とても穏やかな時間が流れている。
でもきっと、美樹も海も、ずっとこうはしていられないことくらい、既に
分かってはいたのである。ただ、その現実からは目を背けているだけで……

四月の中旬に海と出会ってから約2ヶ月、美樹はほぼ毎日と言って良い程
学校の帰りに自然公園に寄っていた。ある時は、学校の授業を仮病を使って
早退してまでも海に会いに行くこともあった程、美樹は海に会おうとしていた。
海は木から次の日の天気をよく教えてもらうらしい。
雨の日は大人しく家にいるのだという。
今日の天気はくもりである為、自然公園に行けばきっと海に会える。
しかし、今日は学校の課題があるためその余裕が無かった。
…それにしても、自然公園にいる時間帯、そして様子からして海が学校へ行って
いないことは明白なのだが、一体家庭はどんな状態なのだろうか。
海の礼儀正しさからすると、海の両親はとてもしっかりした人なのではという
想像をしていたが、そうであれば海が毎日、それも一日中公園へ行くことを許す
のであろうか?
普通の親なら兎に角何らかの事をして学校に行かせようとするのではないか。
海の場合、親にほったらかしにされている感じがしてならないのである。
以前会話をした時に、「僕の友達は、この木々達だけなんです。」と言って
無理に笑顔を作っていたが、親はそのことについて知っているのだろうか…。
それ以前に、何故海には友達がいないのだろう。
しっかりしすぎていて周りの人とは価値観が違ったりするためか?
そうでなければ、親が原因…?
美樹が家にいる時に考えることも、いつしか海のことばかりになっていた。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「ちょっと美樹? 入るわよ。」
美樹の母親、由紀の声である。
浅木家では、たとえ家族であろうとも部屋に入るときにはノックをするのが
ルールなのだ。
扉が開き、由紀はゆっくりと部屋に入ってきた。
「何…?」
美樹が怪訝な表情をして言うと、由紀もまた怪訝な表情になった。
「何じゃないでしょ。アンタ、進路は一体どうするつもりなの? もう6月よ。
まさか何も考えていないわけ無いわよね。」
去年の10月くらいになってから由紀はやたら進学の話しばかりするようになった。
昔は一緒によく出かけたりもして、他愛のない話しをよくしたものだったけれど、
今では食事の時でさえも会話をすることは殆ど無い。
「あー…うん、もう少しで決まるから。」
「はぁ…、またその返事なの? いつからそんな物事に無関心になっちゃった
のかしらね…。昔は好奇心旺盛でそれに加えて色んなことに積極的だったし、
友達だってたくさんいたのに…。」
その母の対応に、何も言葉を返すことは無い。
ここんとこ、母とのやりとりはずっとこんな感じだった。
美樹自身も、本当はこんなにだらだらとしていては駄目だということくらい
分かっている。しかし、やりたいことが分からず、何の目標も無い美樹は
この先どうしたら良いのか分からないのだ。
「大学に進学しないんだったら…まさか職に就こうとでも思ってるの?」
「いや…別にそうとは…。」
「真剣に考えなさいよ!! あんたは…」
「五月蠅いな!! 一刻も早くこの先について決めないとやばいんだってこと
くらい自分でも分かってるよ! 分かってるからさっさと部屋から出て行ってよ!!」
むらむらとしていた胸の内の言葉がついつい出てしまった。
今の状況はこれで凌ぐことができても、また後で面倒くさいことになるだろう。
「……どんな道に進んでも、自分がこの先どうなっても、私は知らないわよ。
…誰のせいにも出来ないんだからね。」
由紀はそれだけ言うと、部屋から出ていった。
美樹の胸には、不安と空虚さだけが残った。


─そして学校、2時間目。
美樹は授業に集中することが出来ず、ただ窓の向こうに見える空に
目をやっていた。
…こんな時間は、退屈でたまらない。こんな時間、自分には何の為にもならない。
昨日は親に怒鳴られ、そして怒鳴り返してしまったせいで少しお腹が痛かった。
焦りを感じつつも、どうしたら良いのか分からない。
そんな時にこんな学校の授業を受けていることなんて、時間を浪費しているに
過ぎないのだ。
ガタッ。
椅子から立ち上がる一人の生徒に、先生とクラス全員が一斉に目をやった。
「…どうした、浅木。」
「先生…ちょっと…、お腹が痛いので早退します…。」
これで合計3回目くらいであろう、美樹は仮病を使う。
最近では仮病を使うことに罪悪感を持つことすらも無くなっていた。
「そうか…。でも最近多いぞ。今日はゆっくり休んで早く体調治せよ。」
「はい…。」
そう言って美樹は鞄に荷物を全て入れ、教室のドアを開ける。
ここから先に行ってしまえば、こちらの勝ち…だ。
では何が負けなのかと言うと、それは自分の大切な時間を浪費してしまうこと、
つまり、学校で必要の無い授業を呆然と受けていることである。
美樹はそそくさに教室を出て行った。

まだ空は青い。太陽の暖かさに包まれて、とても心地が良い。
公園に向かうには、いくつもの階段を上らなければならない。
しかし、美樹はこれにも慣れていた。
今は午前10時20分。…多分、もう海はいるはずである。
海の家庭の事情は相変わらず分からないけれど、だいたいいつも朝10時くらい
には自然公園にいるのだと言う。
朝の10時から夕方5時過ぎまでよくいられるなと偶に思う。
孤独で話し相手が木々達だけだと言うのなら、それも仕方がないとは思うが…。
以前に美樹は、
「人にどう思われようが、自分が楽しければそれで良いんじゃない?」
とか、
「物事をどうこうと考えるのを止めれば、孤独になる代わりに凄く楽になる」
の様なことを言ってしまっていたが、後になってそのような事を言ってしまった
ことに、少し後悔の念を抱いていた。
「海が色々と考えることを止めてしまえば、更に孤独になってしまう。
海はきっと友達が欲しいんだ。そんなことにも気が付けずに私はあんなことを…。」
正直、他人の心配よりも自分自身の心配をしなければならないのかもしれない。
ここまで海に気に掛けるのは、本当は海に興味を抱いているというよりも、
自分は海のことを…?
それとも、海に自分の希望を、この先のあるべき道を見出そうとしている
のだろうか…?
自分の心が、自分でも分からない。
そんな自分の心を、他人が理解しようとすることは尚更無理なことだ。
そして、…自分のことを理解できないような者が他人を理解しようとすることは
…きっと難しいに違いない。
最後の段を上り終え、美樹は一息つくと一本の桜の木を見た。
緑の葉が生い茂っており、海と始めて出会った時に見た桜の花びらの跡は
全く見られなくなっている。
「海ー、いる…?」
2回目に会って以降、海を呼ぶときはいつもこんな感じである。
海からの返事はいつも呼んだらすぐに返ってくるのに、今日は全く返事が無い。
美樹は心配になり木の反対側を覗くが、そこには誰の姿も無かった。
「海…?」
海の身に何かあったのだろうか? 心配で堪らなくなる。
しかしその不安も、数秒後にうち砕かれることとなった。
背中をぎゅっと抱きしめらたのだ。10歳の少年は目一杯その背中を
抱きしめているようだが、自分より20㎝程小さい少年のその行為は、
端から見れば単に可愛らしいものでしか無いだろう。
例えるなら、弟が姉に抱きついているような感じである。
実際その年齢で必要以上に愛情を込めることはきっとできない…。
「美樹さん、今日は来てくれたんですね…。」
美樹は海の手をぎゅっと握りしめた。
「ごめん、昨日はちょっと色々あって来られなくて。でも、今日はその代わりに
学校サボって来ちゃった。」
美樹がそう言うと、海はゆっくりと美樹を解放した。
「ごめんなさい…、本当はそんなことして良い筈無いのに…。
美樹さん、僕のこと同情してくれているんですよね…?」
「え…? 同…情…?」
まさか海からそのような言葉が出てくると思っていなかった美樹は、
次に発する言葉が出てこなかった。
「美樹さんが来てくれるのは、本当に本当に嬉しいんです。でも、僕なんかの
相手ばかりしていたら、学校で色々なことがきっと大変になってしまいます…。」
「……別に。別に良いよ、そんなの気にしないタイプだって前に言ったでしょ?」
「そうですけど…。」
海は俯いて言う。
「……美樹さん、本当は寂しいんじゃないんですか?…人と付き合うことに
トラウマがあって…。だから、何も考えないようにしているんじゃ…。」
何で、この少年は自分のことをここまで見抜けるのだろう?
自分が気にしないようにしていた部分が、心の奥に仕舞って置いて、何でもない
と思い込んでいた物が、少しずつ見えてきてしまう。
「僕は別に良いんです…、元から一人ですから…。
今の僕なら、何も考えないように、何も気にしないようにするのが最善なんです。
でも、…美樹さんは違う。」
胃の辺りがきりきりと痛む。嫌なことを、ずっと仕舞っておきたかった過去を、
このままでは全て思い出してしまう。
「もう、そんなのは気にしなくて良いからっ。それよりもさ、また木と会話して
見せてよ。私も会話できるようにならないかなー…。」
自分の心の中を探られるばかりで、海のことを聞き出すことができない。
不愉快になった美樹が無理矢理にでも話しを逸らそうとしたのは明白だった。
そしてそれを感じ取ったのか、海は先ほどまでの話しをすることは無い。
その話しはそこで終わらせたのだが、美樹は笑顔を作りつつも心の中に違和感を
感じていたのだった。



海は木に触れ、目を閉じる。
「海だよ…うん、今日も美樹さんが来てくれてるんだ。美樹さんも君と会話を
してみたいって言ってる…。」
その間、公園には少しの静寂が訪れる。
美樹には何も感じられないが、海は木が返事を返してくれているのを感じ取って
いるようだった。
毎回会う度に、海に家庭はどんな感じなのか、どんな状況なのかを聞こうと
思ってはいるのだが、いつも聞けないで終わってしまう。
自分のことは一切口にせず、人の事情ばかりを見抜いてしまうこの少年。
木と話せるだけでなく、この少年自身が本当に不思議である。
そして今回も、結局その話しを切り出せずに終わってしまった。


……海のお母さんは? 海のお父さんは?
何故海はこうして毎日この公園に現れるのだろう?
私のことを探ろうとばかりしないで君のことを教えてよ。
もっと君のことが知りたい……。
しかしきっと、海が自身の悩みを話してくれても、今の美樹には理解すること、
一緒に悩んであげることなどできないかもしれない、いや…できない。
自分自身と向き合えない人間が、他人を理解することは難しいのだ。
それでも美樹は、他人のことを知りたいと思う。

そしてこうも彼を心配になるのは、もはや同情しているからではない。
こうも彼のことが気になるのは、単なる興味から起きているのではない。
……17歳の少女は、10歳の少年に恋をしてしまったのだ。

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プロフィール
HN:
Remi
性別:
女性
自己紹介:
好きな音楽→ELECTROCUTICA、西島尊大、LEMM、ジャズ


過去に小説を書いていたので載せています。
最近また小説を書きたくなったので書いていますが、
書けなくて悪戦苦闘しています。
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