過去の小説を載せていきつつ、新たに小説も書いていきたいと思っています。更新ペースはきまぐれです。
ジャンルは恋愛、青春。日常に非現実的なことがちょっと起こったりとかが大好きです。
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あの後律子は暫く放心状態であったが、知らぬ間に気絶してしまっていたらしい。
季節は変わりつつあると言えど、今はまだ3月。夜になると冷え込むので、
上着がなければ居られたものではない。
律子はその寒さと、親からの着信で目が覚めたようだった。
横を見ると、ついこの間まで郁夫だった女性がそこに横たわっている。
それを見てぼーっとしていた頭が一気に冴え、どうしたら良いものかと周囲を見渡した。
放心状態に陥り、後に彼女と共に気を失ってしまった自分情けなく思う。
彼女の事は良く分からない。だけど、きっと誰かの、何らかの助けを必要としているに違いない。
気を失った彼女を長時間この状態のままにしておくのは危険な気がする。
それに、もしかしたら彼女から郁夫に関する何らかの情報を得ることができるかもしれない。
・・・これらはもちろんすべてが律子の勘である。
「~な気がする。」という程度のものだ。
だがその勘が、今すぐにでも何らかの行動に移れ! と律子を駆り立てた。
周囲を見ると、やはり自分たち以外には誰もいないようで、この状況で頼れるのは着信の鳴っている電話の向こうしかなかった。
そう判断すると、急いでスーツのジャケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押した。
「・・・も、もしも」
「あんた今どこにいるの! 何かあった訳じゃないわよね!?」
もしもしという応答の言葉さえも言わせてもらえないくらいに、母は慌てているようだった。
腕時計で今の時間を確認すると、・・・22時を過ぎたところ。
帰宅時間を必ず連絡する律子だが、今日は何の連絡も入れていない。
母は過保護な所があるので、心配するのも当然だった。
・・・何かあったのかと言われれば、確かに衝撃的な出来事があった。
しかし解決したという訳ではないのだから、実際はまだ現在進行形の段階なのだが。
ここは早く事情を説明した方が良いのかもしれない。
「私が最近よく行ってるって話したあの公園、あるじゃない。今、そこにいるの。
それで、」
「ちょっと、何でこんな時間にそんなところにいるのよ! もう12時過ぎてるのよ!?」
次を話そうというところで、再び母に遮られる。
さすがに苛立った律子は、声を荒げた。
「ちゃんと聞いて!! 私、ずっとここで友達といたんだけど、彼女が急に倒れちゃって・・・。でも、気を失ってるだけだから、大事には至っていないと思う。
とにかく、どうしたら良いのかわかんなくて・・・。お願い! お母さん、お父さんも・・・、協力して欲しいの!!」
それを聞いて更に慌てる母だった。しかし、その瞬間電話から聞こえてくる声が
父のものに変わった。
母の姿をすぐ横で見ていたのか、しびれを切らして電話を取ったらしい。
律子の声は電話の外にも漏れていたようで、父にも内容は伝わっていた。
「律子・・・、今すぐ車でその公園へ向かうから、友達の様子をしっかりと見ていなさい。着いたら、すぐにその友達を夜間救急病院に連れて行く。」
父の言葉を聞いて、律子は安堵のため息を漏らした。
「お父さん・・・。ありがとう、待ってる。すぐ来てね・・・。」
「あぁ、わかってる。」そう言うと同時に父はさっさと電話を切った。
普段は冷たく口数の少ない父親で、あまり会話をすることもなかった。
その上、「私のことなんてどうせ興味無いんだろう」と思ってしまうこともあったりで、
何となく苦手な存在だった。
しかし、たったこれだけの会話でこれまでずっと冷たいと思っていた父を温かく感じた。
静かな時間。聞こえるのは、時折吹く冷たい風の音だった。
昼間は春の気候だというのに、夜になると途端に冬が戻ってくる。
・・・普段は大して気にも留めないことなのに、一日に二つの季節を体感することができると考えると、 何とも不思議な気持ちになる。
ふと、すぐ隣に横たわる彼女の顔を頬を撫でてみた。
――冷たい。
少し心配になって、彼女の胸に耳を押し当ててた。
「良かった、生きてる・・・。」
安堵のため息を漏らす。
・・・それにしてもささやかなものではあったが、愛おしいと感じていた
『郁夫の顔した人』の胸元で柔らかな感触がしたのはこの上なく複雑な気分だった。
「律子っ。」
彼女の顔を見つめながら茫然としていると、階段の方から父の声がした。
その後ろには慌てた様子の母がいた。
「律子・・・、友達って、その人?」
母が怪訝な顔をして言うので、律子は「そうだよ。」と真剣な顔で返した。
「公園の外に車がある。すぐにその人を病院へ連れて行こう。
あと、お前も一緒にな。」
父が真っすぐこちらを向いて言うので、思わず「え?」と拍子抜けした声を出してしまう。
すると、父は律子の額を軽く撫でた。・・・ひりひりと軽い痛みを感じた。
「律子・・・。何があったの?」
不安げな顔で母は言った。
「・・・私自身、今何が起こっているのか正直よく分からないの。
色々分かった上で頭の中が纏まったら、必ず全部話すから・・・。
だから、今はただ力だけ貸してほしいの・・・。お願い・・・。」
真っすぐに母を見て言う。正直、今はあれこれ説明できるほど自分でも
状況を理解できていなかった。これが、今自分の両親に言えることの精いっぱいだった。
母は、困った顔で父を見る。
父は母の視線を受けつつ、真っすぐに律子を見た。
「・・・分かった。お前の中で纏まるまで、待ってる。
だけどな、危険そうなことには絶対に関わるな。
もし何かに巻き込まれそうになったら、その時は必ず言いなさい。」
そう言って、律子の頭を優しく撫でた。
母も父のその返答を見て、不安げな表情を浮かべつつも納得した様子だった。
「・・・ありがとう。お父さん、お母さん。」
律子は涙を浮かべ、二人に深く頭を下げた。
夜間救急病院は公園から30分程車を走らせた所にあった。
車を止めると、父は彼女を背負い、律子と母が車から降りたのを確認すると
病院の入口へと向かう。
院内に入り、時計を見ると既に23時を過ぎていた。
どうやらこの病院は24時までとのことで、父は短い時間で着実にリサーチをしてくれていたようである。
その後彼女と律子は別の診察室へと運ばれ、父は彼女に、母は律子に付いた。
律子の傷は、失神した際に転がっていた石に強打し、できたもののようだった。
大事には至らないが、流血は収まりつつも大きな傷ができているので、縫合する
ことになった。
――それから40分程。
簡単な手術は終わり、律子と母は診察室から出た。
傷は4針程縫い、塞がったら抜糸して終了とのことだった。
父が入って行った診察室の方を見ると、まだ終わっていないようで
何だか胸がそわそわとする。
「・・・大丈夫かな。」
そう呟くと、母は律子の頭を優しく撫で、
「あんたは自分の心配をしなさい。これ、多分傷跡残っちゃうかもね・・・。」
と、少し悲しそうな顔をした。
それからうつらうつらしていると、父が診察室から出て来た。
・・・その横に彼女の姿は、無い。
父は口を開き、淡々と話した。
「まだ気を失った状態だから詳しいことは分からないが、見たところ
体に悪いところは無さそうだった。恐らく自律神経の乱れによるものでは
無いかということらしいが、詳しい情報は彼女が目を覚ましてからになる。」
そう言うと、少しの間沈黙が広がった。
郁夫が郁夫でなくなってしまったのは・・・、彼女に変わってしまったのは、
その自律神経の乱れによるものだと言うのだろうか?
疾患だとかそういったことの知識は当然のことながら全く無いのだが、
何だか釈然としなかった。
父はそんな様子の律子を見て口を開いた。
「・・・心配な気持ちもわかる。だけど、お前も無理はするな。
怪我をしては、本末転倒だろう。」
それに対し「・・・うん、ごめん。」と返したが、殆ど空返事だった。
心配? ・・・罪悪感が湧くが、今の感情はそれとは少し違っていた。
もやもや? 不安? 悲しい気持ち?
良くわからないが、色々な感情に押しつぶされそうだった。
「うっ・・・。」
額の傷が疼く。
そのタイミングで、父は腕時計を見た。
「もう遅い。取りあえず今日は休んで、また来よう。」
「そうね。」と母が返すと、二人は出口まで歩いて行った。
少し経ってから、律子は覚束ない足取りでその後について行く。
こんな状況でありながら、とにかく郁夫に会いたいと思う自分がいた。
「公園から一望できるあの景色。・・・あの絵が完成するのを、見たかったのに・・・。」
そう呟くと、律子は静かに涙を流した。
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季節は変わりつつあると言えど、今はまだ3月。夜になると冷え込むので、
上着がなければ居られたものではない。
律子はその寒さと、親からの着信で目が覚めたようだった。
横を見ると、ついこの間まで郁夫だった女性がそこに横たわっている。
それを見てぼーっとしていた頭が一気に冴え、どうしたら良いものかと周囲を見渡した。
放心状態に陥り、後に彼女と共に気を失ってしまった自分情けなく思う。
彼女の事は良く分からない。だけど、きっと誰かの、何らかの助けを必要としているに違いない。
気を失った彼女を長時間この状態のままにしておくのは危険な気がする。
それに、もしかしたら彼女から郁夫に関する何らかの情報を得ることができるかもしれない。
・・・これらはもちろんすべてが律子の勘である。
「~な気がする。」という程度のものだ。
だがその勘が、今すぐにでも何らかの行動に移れ! と律子を駆り立てた。
周囲を見ると、やはり自分たち以外には誰もいないようで、この状況で頼れるのは着信の鳴っている電話の向こうしかなかった。
そう判断すると、急いでスーツのジャケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押した。
「・・・も、もしも」
「あんた今どこにいるの! 何かあった訳じゃないわよね!?」
もしもしという応答の言葉さえも言わせてもらえないくらいに、母は慌てているようだった。
腕時計で今の時間を確認すると、・・・22時を過ぎたところ。
帰宅時間を必ず連絡する律子だが、今日は何の連絡も入れていない。
母は過保護な所があるので、心配するのも当然だった。
・・・何かあったのかと言われれば、確かに衝撃的な出来事があった。
しかし解決したという訳ではないのだから、実際はまだ現在進行形の段階なのだが。
ここは早く事情を説明した方が良いのかもしれない。
「私が最近よく行ってるって話したあの公園、あるじゃない。今、そこにいるの。
それで、」
「ちょっと、何でこんな時間にそんなところにいるのよ! もう12時過ぎてるのよ!?」
次を話そうというところで、再び母に遮られる。
さすがに苛立った律子は、声を荒げた。
「ちゃんと聞いて!! 私、ずっとここで友達といたんだけど、彼女が急に倒れちゃって・・・。でも、気を失ってるだけだから、大事には至っていないと思う。
とにかく、どうしたら良いのかわかんなくて・・・。お願い! お母さん、お父さんも・・・、協力して欲しいの!!」
それを聞いて更に慌てる母だった。しかし、その瞬間電話から聞こえてくる声が
父のものに変わった。
母の姿をすぐ横で見ていたのか、しびれを切らして電話を取ったらしい。
律子の声は電話の外にも漏れていたようで、父にも内容は伝わっていた。
「律子・・・、今すぐ車でその公園へ向かうから、友達の様子をしっかりと見ていなさい。着いたら、すぐにその友達を夜間救急病院に連れて行く。」
父の言葉を聞いて、律子は安堵のため息を漏らした。
「お父さん・・・。ありがとう、待ってる。すぐ来てね・・・。」
「あぁ、わかってる。」そう言うと同時に父はさっさと電話を切った。
普段は冷たく口数の少ない父親で、あまり会話をすることもなかった。
その上、「私のことなんてどうせ興味無いんだろう」と思ってしまうこともあったりで、
何となく苦手な存在だった。
しかし、たったこれだけの会話でこれまでずっと冷たいと思っていた父を温かく感じた。
静かな時間。聞こえるのは、時折吹く冷たい風の音だった。
昼間は春の気候だというのに、夜になると途端に冬が戻ってくる。
・・・普段は大して気にも留めないことなのに、一日に二つの季節を体感することができると考えると、 何とも不思議な気持ちになる。
ふと、すぐ隣に横たわる彼女の顔を頬を撫でてみた。
――冷たい。
少し心配になって、彼女の胸に耳を押し当ててた。
「良かった、生きてる・・・。」
安堵のため息を漏らす。
・・・それにしてもささやかなものではあったが、愛おしいと感じていた
『郁夫の顔した人』の胸元で柔らかな感触がしたのはこの上なく複雑な気分だった。
「律子っ。」
彼女の顔を見つめながら茫然としていると、階段の方から父の声がした。
その後ろには慌てた様子の母がいた。
「律子・・・、友達って、その人?」
母が怪訝な顔をして言うので、律子は「そうだよ。」と真剣な顔で返した。
「公園の外に車がある。すぐにその人を病院へ連れて行こう。
あと、お前も一緒にな。」
父が真っすぐこちらを向いて言うので、思わず「え?」と拍子抜けした声を出してしまう。
すると、父は律子の額を軽く撫でた。・・・ひりひりと軽い痛みを感じた。
「律子・・・。何があったの?」
不安げな顔で母は言った。
「・・・私自身、今何が起こっているのか正直よく分からないの。
色々分かった上で頭の中が纏まったら、必ず全部話すから・・・。
だから、今はただ力だけ貸してほしいの・・・。お願い・・・。」
真っすぐに母を見て言う。正直、今はあれこれ説明できるほど自分でも
状況を理解できていなかった。これが、今自分の両親に言えることの精いっぱいだった。
母は、困った顔で父を見る。
父は母の視線を受けつつ、真っすぐに律子を見た。
「・・・分かった。お前の中で纏まるまで、待ってる。
だけどな、危険そうなことには絶対に関わるな。
もし何かに巻き込まれそうになったら、その時は必ず言いなさい。」
そう言って、律子の頭を優しく撫でた。
母も父のその返答を見て、不安げな表情を浮かべつつも納得した様子だった。
「・・・ありがとう。お父さん、お母さん。」
律子は涙を浮かべ、二人に深く頭を下げた。
夜間救急病院は公園から30分程車を走らせた所にあった。
車を止めると、父は彼女を背負い、律子と母が車から降りたのを確認すると
病院の入口へと向かう。
院内に入り、時計を見ると既に23時を過ぎていた。
どうやらこの病院は24時までとのことで、父は短い時間で着実にリサーチをしてくれていたようである。
その後彼女と律子は別の診察室へと運ばれ、父は彼女に、母は律子に付いた。
律子の傷は、失神した際に転がっていた石に強打し、できたもののようだった。
大事には至らないが、流血は収まりつつも大きな傷ができているので、縫合する
ことになった。
――それから40分程。
簡単な手術は終わり、律子と母は診察室から出た。
傷は4針程縫い、塞がったら抜糸して終了とのことだった。
父が入って行った診察室の方を見ると、まだ終わっていないようで
何だか胸がそわそわとする。
「・・・大丈夫かな。」
そう呟くと、母は律子の頭を優しく撫で、
「あんたは自分の心配をしなさい。これ、多分傷跡残っちゃうかもね・・・。」
と、少し悲しそうな顔をした。
それからうつらうつらしていると、父が診察室から出て来た。
・・・その横に彼女の姿は、無い。
父は口を開き、淡々と話した。
「まだ気を失った状態だから詳しいことは分からないが、見たところ
体に悪いところは無さそうだった。恐らく自律神経の乱れによるものでは
無いかということらしいが、詳しい情報は彼女が目を覚ましてからになる。」
そう言うと、少しの間沈黙が広がった。
郁夫が郁夫でなくなってしまったのは・・・、彼女に変わってしまったのは、
その自律神経の乱れによるものだと言うのだろうか?
疾患だとかそういったことの知識は当然のことながら全く無いのだが、
何だか釈然としなかった。
父はそんな様子の律子を見て口を開いた。
「・・・心配な気持ちもわかる。だけど、お前も無理はするな。
怪我をしては、本末転倒だろう。」
それに対し「・・・うん、ごめん。」と返したが、殆ど空返事だった。
心配? ・・・罪悪感が湧くが、今の感情はそれとは少し違っていた。
もやもや? 不安? 悲しい気持ち?
良くわからないが、色々な感情に押しつぶされそうだった。
「うっ・・・。」
額の傷が疼く。
そのタイミングで、父は腕時計を見た。
「もう遅い。取りあえず今日は休んで、また来よう。」
「そうね。」と母が返すと、二人は出口まで歩いて行った。
少し経ってから、律子は覚束ない足取りでその後について行く。
こんな状況でありながら、とにかく郁夫に会いたいと思う自分がいた。
「公園から一望できるあの景色。・・・あの絵が完成するのを、見たかったのに・・・。」
そう呟くと、律子は静かに涙を流した。
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プロフィール
HN:
Remi
性別:
女性
自己紹介:
好きな音楽→ELECTROCUTICA、西島尊大、LEMM、ジャズ
過去に小説を書いていたので載せています。
最近また小説を書きたくなったので書いていますが、
書けなくて悪戦苦闘しています。
過去に小説を書いていたので載せています。
最近また小説を書きたくなったので書いていますが、
書けなくて悪戦苦闘しています。
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