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過去の小説を載せていきつつ、新たに小説も書いていきたいと思っています。更新ペースはきまぐれです。 ジャンルは恋愛、青春。日常に非現実的なことがちょっと起こったりとかが大好きです。
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優秀作品の傍には、そのコンセプトや制作日時を記載したキャプションがある。
制作者名には、『橋本恵理子』と書かれていた。
郁夫はその名前を目に焼き付けているようだった。

パキン。

瞬間、瑞穂の脳内に響く音。
それは、何かで止められていたものが、壊れてしまう音だった。

・・・あぁ、付かず離れずの、この関係が、崩れようとしている。

ーーそれから数日も経たなくして、郁夫と恵理子は友人になった。
そこにはもちろん瑞穂も一緒にいて、複雑な心境を抱えつつも恵理子に
「本当に、素敵な作品だった。是非、あなたと友達になりたい。」
と白々しく言う。
そんな瑞穂の心を少しも知らず、まだ新参者でもある恵理子は、快く「はい!」
と答え、瑞穂と握手を交わすのだった。

彼女の作品は自然、特に花をモチーフにしたものが多く、
その瞬間の風や太陽の光、その時の動きを表現した、印象派画家によく見られる技法や表現を
参考にした油絵が多い。
対象的に郁夫の作品は、現像物をモチーフにしたものが多く、
『その瞬間の自然』を表現したものは無い。
郁夫にとって「恵理子の絵は新しく、良い刺激を与えてくれる」とのことだった。

瑞穂がこの学校に来ている本当の理由は、郁夫と一緒にいるため。
美術は好きと言うわけでもなく、嫌いでもないというくらいで、
描くことはあまり得意でなかった。
ただ、『郁夫によって描かれる建造物たち』と、彼の『絵を描く姿』は凄く好きで、ずっと見ていたいと思うくらいだった。
ここまで郁夫に付いてきてしまったのは、その姿を少しでも長く見ていたいためでもある。
彼に自分自身を見てもらえないのなら、・・・せめて彼のその姿を見ることだけは許してもらいたかった。

郁夫と瑞穂は、気が合っていた。
会話をすれば自然と続いて行くし、話が止まってもその沈黙が心地よいくらいだった。
だから郁夫は、瑞穂に好意を抱いていないとしても、親友・・・それ以上とも思える
瑞穂を拒絶することがなかったのだろう。
しかし、恵理子と3人で行動を共にするようになってから、郁夫のあらゆる面に変化が生じ始めていた。

三人の共通点は戸外制作をするという点にあった。
そのため、毎日のように三人で外に出ては制作をし、雨の日はカフェでお喋りをしたりして、日々を過ごしていた。
瑞穂は相も変わらず恵理子に笑顔を向けつつも内心は笑顔になれなかった。
自分の作品にも興味が無いし、恵理子の作品に惹かれる部分がありつつも素直に評価ができない。
瑞穂にとっては苦しい日々だった。

郁夫はたまに、制作をしたいと一人で外出をし、授業を欠席することがあった。
雨の日に外出することは少なかったのだが、これはそんなある日のこと。
ぼんやりと、スケッチブックの中にある自分の作品を見つめている時だった。
「瑞穂さんっ。」
突然真横から声がし、驚いた瑞穂はスケッチブックをバサッと落とした。
「びっくりしたぁ・・・。恵理ちゃんかぁ。どうしたの?」
なんて笑顔を向けつつも、瑞穂の心境は穏やかでは無く、そわそわとスケッチブックに手を伸ばす。
すると、横から伸びて来た恵理子の手に先を越され、スケッチブックを取られてしまった。
笑顔の恵理子はスケッチブックに目を写すと、次第にその表情が真顔に近づいて行く。
「これ・・・。」
あぁ、見られてしまった。
観念した瑞穂は、彼女から放たれる言葉がどんな言葉であろうと、もう待つしかなくなった。
少しの沈黙の後・・・、
「瑞穂さん、これ。私?」
そうだよ。と心の中で返事をするが、彼女には頷くだけに留める。
このスケッチブックの中は全て、瑞穂が描いた恵理子の絵だ。
何かから解放されたかのような、爽やかな表情をする彼女。
スケッチブックにある彼女は、どれも美しく微笑んでいて、その瞳からは何の曇りも見られない。
・・・これは、全て郁夫から見えているであろう彼女を想像したものだ。
我ながら、こんなもの描いてしまうだなんて本当に病んでしまっていると思う。
しかし、こんな感情の時ほど、好きでもない絵を闇雲に描いてしまうものである。

・・・気持ち悪がられただろうか?
瑞穂は、そっと彼女の顔を伺った。
「・・・私は、こんな晴れやかな顔じゃないですよ。もっと、もっと薄汚れてる。」
その時の恵理子は、怒っているでもなければ、笑っているでもなく・・・
一粒の雫が、床にぽたりと落ちた。
瞳の奥が灰色に見え、霞んでいる。
彼女は、泣いていた。

ーー雨の日。いつもより一人足りない、ふたりきりのテーブル。
ひとしきり涙を流した後、彼女はいつもの爽やかな笑顔に戻っていた。
その時の瑞穂は何も追及することなく、何を言うでもなく、ただ自分の描いた彼女だけを見つめ、彼女が落ち着くのを静かに待っていた。
そして、どういう流れか二人だけでいつもの習慣を行うのだった。
「やっぱり、雨の日はこのカフェですね。」
静かに、ジャズのメロディーが鳴り響くカフェ。
恵理子とは対照的に気持ちが今一乗らない瑞穂は、おずおずと、けれど単刀直入に言った。
「私、恵理ちゃんの才能と、恵理ちゃん自身が羨ましい。」
ただ、それだけだった。
郁夫が彼女のことを好きなら、もうどうしようもないのだ。
その現実を受け止めきれない自分だけがいけない。やり場のない感情だった。
恵理子は柔らかく微笑み、そっと口を開いた。
「 私は、ただ、生きたいように生きているだけです。
色んなものを捨ててまで生きている私が、あんなに美しい筈がない。」
返答が、論点とずれている。
そう感じた瑞穂は更に言おうとするが、そっと恵理子に制された。
「私は、郁夫さんや瑞穂さんが羨ましいんです。
自分の感情のままに描いていて、自分の描きたいものを素直に描いている。
あなたたちの絵こそが、美しいと思います。」
「何が言いたいの・・・?」
湧きあがる怒りの感情を押し堪えて、聞く。
「私は何か、罪悪感から逃れるために絵を描いてしまっている。
全てをはっきりさせて、綺麗にさせてからここに来るべきだった。
全てを無下にして、裏切って、ここにいる。」
彼女のことは詳しく分からない。しかし、どうも彼女は色々な事情を抱えているようだった。
・・・それにしても、自分の絵を『羨ましい』と、『美しい』となんて言われたことがなかった。・・・郁夫にさえも。
瑞穂は、『自分が絵を描く理由』なんて、なかった。
ただただ、感情のままに動いていた。
けれど今、初めて自分の絵に少しの価値が与えられたような気がした。
怒りは自然と引き、心がじわっと暖まっていく。
「・・・何があったかは分からないけれど、決して絵を描く理由が罪悪感から逃れるためで
あっても、それでも良いと思う。恵理ちゃんがそれを認められないとするなら、
・・・私が認めるよ。・・・何さまだって話だけど。」
その後、恵理子は再び顔を歪ませ、静かに涙を流した。
郁夫には見せたことのない顔。もしかしたら、瑞穂だったから見せてくれたのかもしれない。
複雑だった二人の距離が、少し近づいた時だった。

真っすぐなようでいて、爽やかでいて、密やかに闇を垣間見せるところ。
もしかしたら郁夫は、彼女と、彼女の絵に見られる、健気さ、そして儚さに惹かれているのかもしれない。そしてそれが、瑞穂にも何となくわかったような気がした。

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過去に小説を書いていたので載せています。
最近また小説を書きたくなったので書いていますが、
書けなくて悪戦苦闘しています。
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