過去の小説を載せていきつつ、新たに小説も書いていきたいと思っています。更新ペースはきまぐれです。
ジャンルは恋愛、青春。日常に非現実的なことがちょっと起こったりとかが大好きです。
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――姉、恵理子の死。
それは、橋本家に衝撃を与えた事件だった。
いや、事件ではなくただの事故だったのだろうか?
あの新聞記事の内容。
『●×学院生徒連続自殺』
『●×学院に通う生徒橋本恵理子(23)と高野郁夫(25)が同校舎の屋上から転落し、死亡した。
両者とも死因は自殺とみられる。』
――高野郁夫。
姉に関連する名前。
姉の死についてはショックのあまり、思い出さないようにしていた。
しかし、忘れられるはずもない記憶である。
そして「高野郁夫」という名前も、同様に忘れるはずがなかった。
もちろん、あの公園の木の下で出会った人物があの事件に関連する人物と同姓同名であったことは分かっていた。
しかし、まさか同一人物であると思うはずがなかった。
何せ、姉の事件に関わりのある高野郁夫は死んでしまっているのだから。
・・・それが、今になって同一人物だったと知る。
頭の中が混乱して、様々な疑問が浮かんでは消えて行く。
一体あの時何があったのか。
何故、姉と郁夫は自殺したのか?
そもそも、ニュースや新聞で取り上げられたあの内容は本当なのだろうか?
――あの事件以来、母は度々ヒステリーを起こすようになってしまい、
父はかつて見せていたような笑顔をなくし、まるで感情を失ってしまったかのようだった。
姉は将来画家になりたいと、その夢を叶えたいと本気で思っていた。
しかし、そんな姉の決めた道の全て否定した父と母。
近隣の家にも聞こえるのではないかというくらい、父は怒鳴りしらし、姉は泣いた。
そして、姉は何も言わずに家を出て行ったのだ。
あの事件をニュースで知った父は、真面目な性格ゆえ罪悪感に苛まれ、毎日苦しんでいた。
荒んでしまった橋本家。
そんな中で少しでもまっとうな道を歩み、両親を元気づけようと律子は懸命に就職活動をするが、身が入らず呆然とした日々を送ってしまっていた。
・・・まだ、何も解決していない。
郁夫のこともそうだが、姉のことも、今の橋本家のことも、全てを解決させるには瑞穂の記憶が必要である。
・・・しかし、瑞穂は事件のことがトラウマとなっているのか口を閉ざし、何も語ろうとしない。
精神安定剤を服用している時でさえ、あの事件のことを思い出そうとするとパニックを起こしそうになるのだという。
とはいえこういった様子から、彼女があの事件に関わった人物であることは確実だろう。
・・・彼女の協力が、全ての解決に繋がるはずだ。
――彼女のスクラップ帳を見てから5日が経つ。
毎日のように彼女の病室を訪れるが、事件のことについては依然として語ろうとはしなかった。
律子も、無理に聞き出そうとすることはなるべく避け、無理そうだと感じたら日常会話のみ
交わすと帰るようにしていた。
しかしここのところ毎日そんな様子で、何の情報も得られずにいる。
正直言うともどかしく、苛立ちを感じずにはいられなかった。
そして結局、この日も日常会話のみに終わり、律子は病室を後にした。
「・・・ただいまー。」
家のドアを開け、玄関に入ると靴を脱ぐ。
辺りは真っ暗で、腕時計を見ると短針は8を指していた。
何だかんだ、日常会話といっても結構話しこんでしまっていたらしい。
彼女とこうした会話をするのは、嫌いではなかった。
むしろ、気持ちが穏やかになる。・・・まるで姉と会話をしているかのようだった。
・・・姉と仲の良かった人だから、だろうか。
それでも苛立ちを感じてしまう面があるのは、やはり裏の事情があるからである。
こうしたもの全てが無ければ、恐らくもっと自然に仲良くなれたのだろう。
何気なくリビングのドアを開けるとそこには食卓を挟み、父と母が向かいあって
夕飯を食べていた。
「おかえりなさい。」「おかえり。」
父と母が短く律子に言い、淡々と箸を口に運んでいた。
かつては笑顔で会話が絶えなかった食卓だったのに、こんなにも淀んだ雰囲気になってしまうだなんて。
そう思うと、姉の存在は偉大だったのだと改めて思わされる。
姉は、いつも笑顔で明るい性格だった。
「何ぼけっとしてるの。早く着替えて、夕飯食べなさい。」
ぼんやりとしていると、母が眉間にしわを寄せて言った。
「あ、うん・・・。」
慌てて自分の部屋へと向かう。
やはり、皆胸中にあの事件のことを閊えたままだ。
「何とか、全ての事実を知って、全てを話すから。だから、もう少し耐えて・・・。」
自室のドアを閉めると、律子はその場にしゃがみ込んでそう呟いた。
――深夜1時
律子は、普段なら一度眠りについたらなかなか目を覚まさない。
なのに何故か今日は目が覚めた。
何故か、胸がそわそわとする。
発表だとか、運動会の時の出番直前だとか、そんな時の緊張感にも似ている。
もっと言えば、それより何倍も嫌な感じ・・・。
つまり、妙な胸騒ぎがするのだ。嫌な予感とでも言うのだろうか。
「・・・病院、行かな、きゃ。」
律子はベッドから飛び起き、簡単に身支度を済ませると静まり返った家を飛び出した。
家から歩いて10分くらいの通りに出ると運よくタクシーがこちらに向かってきたので、勢い良く手を挙げる。
すると、しかめっ面をしたタクシーの運転手は直ぐに律子の前で停車した。
「・・・随分遅い外出だねぇ。で、どこに行きたいの?」
運転手は乗り込んできた律子に対し顔を覗き込むようにして言った。
不良だとでも思われたのだろうか。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
一刻も早く、この胸騒ぎがただの胸騒ぎであることを確認したかった。
律子は病院名を告げ、すぐ後に「最短経路で」と付け足して運転手を急かした。
それから20分程、本来ならばもっと掛かるはずなのだが、もしかしたら運転手が気を利かせてくれたのかもしれない。
(はたまた、面倒な客をさっさと降ろしたかっただけなのかもしれないが。)
いずれにせよ、早く到着できたことに律子は深く感謝した。
「おじさん、ありがとう!」
律子はそう言うと運転手の手に料金と飴玉を一つのせ、タクシーから降りた。
「気をつけろよ。」
という運転手の言葉を背に受け、律子は受付へと直行した。
病院内は既に消灯しており、明りが付いているのは受付のみのようだった。
「すみません、心療内科の病室に入院中の谷村瑞穂さんのお見舞いで伺いました。」
受付担当に向かって急かすように言う。
担当者はそれに動じず、淡々とした様子で口を開いた。
「ご家族の方ですか? その場合本人確認ができるものをご提示下さい。」
「ええぃ! めんどくさい!!」と、心の中で思う。
今の言い方だと、ご家族ではなければ本人確認なんて必要ないのだと捉えることもできる。
完璧な屁理屈だが。
もう、ここは怒られても良い。
「こうなったら、強行突破させて頂きます。」
律子は強く宣言すると、走って病室へ直行した。
「ちょっ! 待ちなさい!!!」と背中の方で受付担当の声がするが、律子はそれを無視した。
消灯後の病院は鬱蒼としており、気味が悪い。
律子はそんな中場違いなくらい五月蠅い音を立てながら、彼女の病室へと走った。
幸い、今彼女の病室は彼女しか入院していない。
少なくとも、あの病室内で他の患者に迷惑をかけることは無いはずだ。
彼女の病室の前まで着くと、律子は息を整えてからドアを開いた。
ドアを開いて一番奥のベッド・・・。
そこに彼女が寝ていれば・・・・
(胸騒ぎがただの胸騒ぎで終わる。それが、確認できれば、それでいい・・・。)
「い、な、い、・・・!?」
途端、ぶわっと全身から汗が噴き出した。
何故、いない・・・?
もしかすると、『胸騒ぎ』が的中してしまうのではないか。
あの事件を繰り返してしまうのではないか!? という・・・。
『屋上から転落し、死亡』
『転落』
『死亡』
「・・・お、くじょう・・・。」
頭の中でそれぞれのワードが繰り返される。
「もしかして・・・!?」
嫌な予感程的中してしまうものである。
律子は最後に浮かんだワードの場所へと向かった。
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それは、橋本家に衝撃を与えた事件だった。
いや、事件ではなくただの事故だったのだろうか?
あの新聞記事の内容。
『●×学院生徒連続自殺』
『●×学院に通う生徒橋本恵理子(23)と高野郁夫(25)が同校舎の屋上から転落し、死亡した。
両者とも死因は自殺とみられる。』
――高野郁夫。
姉に関連する名前。
姉の死についてはショックのあまり、思い出さないようにしていた。
しかし、忘れられるはずもない記憶である。
そして「高野郁夫」という名前も、同様に忘れるはずがなかった。
もちろん、あの公園の木の下で出会った人物があの事件に関連する人物と同姓同名であったことは分かっていた。
しかし、まさか同一人物であると思うはずがなかった。
何せ、姉の事件に関わりのある高野郁夫は死んでしまっているのだから。
・・・それが、今になって同一人物だったと知る。
頭の中が混乱して、様々な疑問が浮かんでは消えて行く。
一体あの時何があったのか。
何故、姉と郁夫は自殺したのか?
そもそも、ニュースや新聞で取り上げられたあの内容は本当なのだろうか?
――あの事件以来、母は度々ヒステリーを起こすようになってしまい、
父はかつて見せていたような笑顔をなくし、まるで感情を失ってしまったかのようだった。
姉は将来画家になりたいと、その夢を叶えたいと本気で思っていた。
しかし、そんな姉の決めた道の全て否定した父と母。
近隣の家にも聞こえるのではないかというくらい、父は怒鳴りしらし、姉は泣いた。
そして、姉は何も言わずに家を出て行ったのだ。
あの事件をニュースで知った父は、真面目な性格ゆえ罪悪感に苛まれ、毎日苦しんでいた。
荒んでしまった橋本家。
そんな中で少しでもまっとうな道を歩み、両親を元気づけようと律子は懸命に就職活動をするが、身が入らず呆然とした日々を送ってしまっていた。
・・・まだ、何も解決していない。
郁夫のこともそうだが、姉のことも、今の橋本家のことも、全てを解決させるには瑞穂の記憶が必要である。
・・・しかし、瑞穂は事件のことがトラウマとなっているのか口を閉ざし、何も語ろうとしない。
精神安定剤を服用している時でさえ、あの事件のことを思い出そうとするとパニックを起こしそうになるのだという。
とはいえこういった様子から、彼女があの事件に関わった人物であることは確実だろう。
・・・彼女の協力が、全ての解決に繋がるはずだ。
――彼女のスクラップ帳を見てから5日が経つ。
毎日のように彼女の病室を訪れるが、事件のことについては依然として語ろうとはしなかった。
律子も、無理に聞き出そうとすることはなるべく避け、無理そうだと感じたら日常会話のみ
交わすと帰るようにしていた。
しかしここのところ毎日そんな様子で、何の情報も得られずにいる。
正直言うともどかしく、苛立ちを感じずにはいられなかった。
そして結局、この日も日常会話のみに終わり、律子は病室を後にした。
「・・・ただいまー。」
家のドアを開け、玄関に入ると靴を脱ぐ。
辺りは真っ暗で、腕時計を見ると短針は8を指していた。
何だかんだ、日常会話といっても結構話しこんでしまっていたらしい。
彼女とこうした会話をするのは、嫌いではなかった。
むしろ、気持ちが穏やかになる。・・・まるで姉と会話をしているかのようだった。
・・・姉と仲の良かった人だから、だろうか。
それでも苛立ちを感じてしまう面があるのは、やはり裏の事情があるからである。
こうしたもの全てが無ければ、恐らくもっと自然に仲良くなれたのだろう。
何気なくリビングのドアを開けるとそこには食卓を挟み、父と母が向かいあって
夕飯を食べていた。
「おかえりなさい。」「おかえり。」
父と母が短く律子に言い、淡々と箸を口に運んでいた。
かつては笑顔で会話が絶えなかった食卓だったのに、こんなにも淀んだ雰囲気になってしまうだなんて。
そう思うと、姉の存在は偉大だったのだと改めて思わされる。
姉は、いつも笑顔で明るい性格だった。
「何ぼけっとしてるの。早く着替えて、夕飯食べなさい。」
ぼんやりとしていると、母が眉間にしわを寄せて言った。
「あ、うん・・・。」
慌てて自分の部屋へと向かう。
やはり、皆胸中にあの事件のことを閊えたままだ。
「何とか、全ての事実を知って、全てを話すから。だから、もう少し耐えて・・・。」
自室のドアを閉めると、律子はその場にしゃがみ込んでそう呟いた。
――深夜1時
律子は、普段なら一度眠りについたらなかなか目を覚まさない。
なのに何故か今日は目が覚めた。
何故か、胸がそわそわとする。
発表だとか、運動会の時の出番直前だとか、そんな時の緊張感にも似ている。
もっと言えば、それより何倍も嫌な感じ・・・。
つまり、妙な胸騒ぎがするのだ。嫌な予感とでも言うのだろうか。
「・・・病院、行かな、きゃ。」
律子はベッドから飛び起き、簡単に身支度を済ませると静まり返った家を飛び出した。
家から歩いて10分くらいの通りに出ると運よくタクシーがこちらに向かってきたので、勢い良く手を挙げる。
すると、しかめっ面をしたタクシーの運転手は直ぐに律子の前で停車した。
「・・・随分遅い外出だねぇ。で、どこに行きたいの?」
運転手は乗り込んできた律子に対し顔を覗き込むようにして言った。
不良だとでも思われたのだろうか。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
一刻も早く、この胸騒ぎがただの胸騒ぎであることを確認したかった。
律子は病院名を告げ、すぐ後に「最短経路で」と付け足して運転手を急かした。
それから20分程、本来ならばもっと掛かるはずなのだが、もしかしたら運転手が気を利かせてくれたのかもしれない。
(はたまた、面倒な客をさっさと降ろしたかっただけなのかもしれないが。)
いずれにせよ、早く到着できたことに律子は深く感謝した。
「おじさん、ありがとう!」
律子はそう言うと運転手の手に料金と飴玉を一つのせ、タクシーから降りた。
「気をつけろよ。」
という運転手の言葉を背に受け、律子は受付へと直行した。
病院内は既に消灯しており、明りが付いているのは受付のみのようだった。
「すみません、心療内科の病室に入院中の谷村瑞穂さんのお見舞いで伺いました。」
受付担当に向かって急かすように言う。
担当者はそれに動じず、淡々とした様子で口を開いた。
「ご家族の方ですか? その場合本人確認ができるものをご提示下さい。」
「ええぃ! めんどくさい!!」と、心の中で思う。
今の言い方だと、ご家族ではなければ本人確認なんて必要ないのだと捉えることもできる。
完璧な屁理屈だが。
もう、ここは怒られても良い。
「こうなったら、強行突破させて頂きます。」
律子は強く宣言すると、走って病室へ直行した。
「ちょっ! 待ちなさい!!!」と背中の方で受付担当の声がするが、律子はそれを無視した。
消灯後の病院は鬱蒼としており、気味が悪い。
律子はそんな中場違いなくらい五月蠅い音を立てながら、彼女の病室へと走った。
幸い、今彼女の病室は彼女しか入院していない。
少なくとも、あの病室内で他の患者に迷惑をかけることは無いはずだ。
彼女の病室の前まで着くと、律子は息を整えてからドアを開いた。
ドアを開いて一番奥のベッド・・・。
そこに彼女が寝ていれば・・・・
(胸騒ぎがただの胸騒ぎで終わる。それが、確認できれば、それでいい・・・。)
「い、な、い、・・・!?」
途端、ぶわっと全身から汗が噴き出した。
何故、いない・・・?
もしかすると、『胸騒ぎ』が的中してしまうのではないか。
あの事件を繰り返してしまうのではないか!? という・・・。
『屋上から転落し、死亡』
『転落』
『死亡』
「・・・お、くじょう・・・。」
頭の中でそれぞれのワードが繰り返される。
「もしかして・・・!?」
嫌な予感程的中してしまうものである。
律子は最後に浮かんだワードの場所へと向かった。
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プロフィール
HN:
Remi
性別:
女性
自己紹介:
好きな音楽→ELECTROCUTICA、西島尊大、LEMM、ジャズ
過去に小説を書いていたので載せています。
最近また小説を書きたくなったので書いていますが、
書けなくて悪戦苦闘しています。
過去に小説を書いていたので載せています。
最近また小説を書きたくなったので書いていますが、
書けなくて悪戦苦闘しています。
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